今年度は、ザリガニに対し摂食阻害活性を有するリグナンであるサウリオール関係の合成研究を終えたため、昆虫に対し強力な摂食阻害活性ならびに成長阻害活性を示すアザジラクチンの全合成の検討を主として行った。 アザジラクチンの立体選択的全合成研究は、引き続きラセミ体を用いた左側のデカリン環部分の構築の検討を行った。このデカリン環の10個の炭素のうち9個が不斉炭素であり、これらの立体選択的導入が本化合物の合成のひとつのハイライトとなる。分子内ディールス・アルダー反応と分子内ラジカル環化反応を鍵とした合成を目指したが、わずか5工程で調製した化合物のディールス・アルダー反応-脱炭酸-クライゼン転位により一気に3環性の化合物を合成することに成功し、そのものからB環形成反応であるラジカル環化の前駆体へと導いた。分子内反応のマイケルアクセプターである不飽和エステルを、ラクトンで固定することにより反応性を向上させようと狙ったところ、予想以上に効果的でこれまでのモデル化合物での2倍の収率で望む環化体(デカリン体)を得ることが出来た。9個の不斉炭素の立体化学も期待通りに制御された。本合成ルートは、他の研究グループが行っているルートに比べ、はるかに短工程かつ効率的である。現在は右側の部分構造と結合させる方法の検討を行っているが、今回の環化反応の成功により、アザジラクチンの世界初の全合成達成に一歩近づいたと考えている。
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