隣接四級炭素の立体化学を認識して選択的に還元反応を進行させる特異的な能力を有する、独自に見出した酵母の一種Torulaspora delbrueckiiを用いる還元反応を検討した。環状ジケトン構造をもつトリケトン類については基質特異性が非常に広く、立体選択的還元反応が進行、光学的に純粋なヘミアセタール閉環体を得ることができた。常温乾燥法によって、補酵素再生系をも一括した形として、基質と糖質を添加するのみで目的とする還元反応が進行するような乾燥菌体の調製に成功した。湿潤生菌体と同等の活性を保持、長期保存も可能であり、汎用性、利便性が大幅に向上した。 テルペン等の天然物合成には、光学活性置換ヒドロキシシクロヘキサンノン類が非常に有用な出発原料として認識されているが、α-アルケニルシクロアルカノン類の光学活性体は、前駆体となるジケトンの調製自体が困難なため、これまで全く関心を呼んでいなかった。上記の酵母がトリケトンを不斉還元し、環状ヘミアセタールを純粋な立体異性体として与えるという結果に基づき、ラジカルのβ-開裂を経由する合成を達成した。生成物のさまざまな官能基変換に成功しており、五員環のα-アルケニル体からはマジンドリン、六員環生成物からはトリプトカロールの重要中間体を合成した。
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