コムギを圃場で栽培し、開花から完熟までの登熟段階の異なる種子を採取した。また、コムギ種子を水耕栽培し、発芽日数の異なる種子を得た。これらの種子を分析の材料として、チアミン結合活性の変化、チアミン量の変化、チアミン結合タンパク質の変化を、それぞれ調べた。 その結果、(1)コムギ種子から得たタンパク質抽出液をチアミン存在下で平衡透析した後、チオクローム蛍光法でチアミン結合活性を測定したところ、チアミン結合活性は種子の登熟とともに増大した。一方、発芽期では発芽とともに減少することが明らかとなった。(2)コムギ種子からチアミン類を抽出精製し、HPLCを用いて、その分析を行ったところ、登熟期の種子においては遊離型のチアミン含量は種子の登熟とともに大きく増加することが明らかとなった。他方、リン酸エステル型チアミンの含量には変動はみられなかった。一方、発芽期の種子においては、遊離型チアミン量、リン酸エステル型チアミン量ともに変動はみられなかった。(3)コムギ種子より得たタンパク質の抽出液をSDS電気泳動で展開し、コムギ種子チアミン結合タンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロッティング法で分析を行ったところ、チアミン結合タンパク質は種子の登熟にともない、種子中に蓄積されることが明らかとなった。また、チアミン結合タンパク質は種子発芽にともなって分解され失われることも明らかとなった。さらに、種子切片を作成し、抗体を用いて免疫染色を行い、その局在を見たところ、チアミン結合タンパク質はコムギ種子ではアリューロン層に特異的に蓄積されることが明らかになった。
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