水溶性ビタミンのビオチンは、哺乳動物において4種類のカルボキシラーゼの補酵素として、重炭酸塩をカルボキシル基として基質に転移させる反応に関与しているが、ビオチンの新しい作用として我々のグループは、糖代謝改善作用を持つことを示してきた。本研究は、この「ビオチンの作用機作の全容を解明」することを目的とした。まず、膵β細胞からのインスリン分泌におけるビオチンの作用部位の特定を試みた。ラット膵臓からランゲルハンス島を単離・培養し、ビオチン添加によるインスリン分泌量の変化を測定した。インスリン分泌量は、16.5mMグルコール培地において、ビオチン50μMまで、濃度依存的に増加し、ビオチンによるインスリン分泌増強作用が再確認された。ビオチンの作用は、グルコースの代わりにピルビン酸を用いた場合においても見られることから、解糖系以降、すなわちミトコンドリア内での反応に関与していると推定された。そこで、標識部位の異なったグルコースの放射性同位体を用いて、TCAサイクルにおける酸化的リン酸化能を測定した。その結果、[U-^<14>C]グルコースを用いた場合、^<14>CO_2生成量は、ビオチン添加で2倍上昇したのに対して、[6-^<14>C]グルコースを使用した場合、変化しなかった。このことから、ビオチンはミトコンドリア内におけるグルコースの酸化を顕著に増加させ、ATP産生を増加させるが、TCAサイクルの回転能には影響を与えず、ATP産生上昇は、NADHシャトルなど他の経路によると推定される。 次に、インスリン抵抗性を改善するビオチンの作用機序の解明として、ビオチンによる肝臓ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)の発現に及ぼす影響の解析を行なった。ラットPEPCKプロモーターをクローニングし、レポーターコンストを作製、現在解析を行なっている。
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