本研究課題に関する研究で、現在までに得られた主な知見は以下の通りである。 (1)牛乳カゼイン、全卵タンパク質、大豆タンパク質(SPI)、あるいは小麦グルテンを含む食餌(25%カゼイン食相当)をラットに10日間自由摂取させたのち、LPS(10μg/kg>+D-galactosamine(GalN)(200mg/kg)を腹腔内注射して急性の肝炎を惹起させ、8時間後に血液と肝臓を採取した。肝炎の指標として血漿中のALTとAST活性を測定した。カゼイン投与ラットではLPS+GalNによる肝炎が最も強く発症し、一方、SPI投与ラットでは肝炎の発症が最も強く抑制されることを見出した。 (2)SPIの肝炎抑制効果の一部はSPIに混在する不純物が関与することが示唆されたが、アミノ酸組成に起因する効果も無視できないと考えられた。カゼインとSPIのアミノ酸組成を比較して少ないアミノ酸を食餌に添加したところ、SPI食へのMet添加は肝炎の発症を高めることを見出した。 (3)カゼインとSPIについて食餌タンパク質レベルと肝炎発症との関係を調べたところ、カゼイン食では10%レベルでは25%あるいは50%レベルに比べて肝炎が抑制され、一方、SPI食では10%と25%レベルでは50%レベルに比べて肝炎が抑制された。LPS+GalNによる肝炎は概して低タンパク質食の投与で抑制されることが示唆され、これには含硫アミノ酸の摂取量が関与する可能性が考えられた。 (4)LPSはマクロファージを活性化してTNF-αの産生・分泌を亢進させ、TNF-αが肝細胞にアポトーシスをもたらし好中球等を集積させて炎症を惹起させると考えられている。SPI食投与ラットではLPS+GalNによる肝細胞のアポトーシスを抑制したが、血漿TNF-α濃度の上昇を抑制しなかった。一方、SPIはTNF-α+GalNによる肝炎を抑制したので、SPIの肝炎抑制効果の一部はTNF-αによるアポトーシス誘導の抑制に起因すると推定された。
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