本研究は、体を構成するタンパク質が、代謝回転により分解を受けると、ごく一部の不消化物としてペプチドが尿へ排泄される現象を利用して、体内の特定のタンパク質に由来するペプチドを見出し、それを定量することによって、当該タンパク質の分解量を推定しようとするものである。この「当該タンパク質」が、特定のがんに由来するものであれば、そのがんの規模、進行状況などを推定できるはずであるし、例えば筋ジストロフィーのような疾病の場合であれば、骨格筋の特定のタンパク質の分解状況から、疾病の状況を推定することが可能であろうと考えて計画したものである。 昨年度、キャピラリー電気泳動の条件を検討してヒト尿ペプチドの基本的ペプチドマップを作成することに成功した。本年度は、副腎皮質ホルモンのうち、グルココルチコイドの投与水準を変えてラットを飼育し、分析すべき試料の調製を行った。試料の調製は、いわば尿の前処理で、遊離アミノ酸とペプチドの分離操作であり、筆者が銅-セファデックス法と呼んでいる方法、すなわちアミノ酸を銅塩にして、カラムに保持させ、相対的に保持時間の短いペプチドと分離しようとするものである。本年度の実験で、この分離を終了し、分析を行なっている。 グルココルチコイド投与下では、尿ペプチド全体の排泄量が著しく増加することは、すでに筆者は報告しているが、特に排泄量が顕著に増加する特定のペプチドが検出できれば、グルココルチコイドを投与されるアトピー患者やリュウマチ患者などの体タンパク質分解の状況を把握できよう。 さらに、近年、食品中のカドミウムの体に対する影響の見直しが行われているので、食餌のカドミウム含量の違いによる体タンパク質の分解状況の解析実験を、ラットで行なった。結果を次年度に報告する。
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