尿へは恒常的に一定量のペプチドが排出されている。本研究者は、従来からの研究によって、この尿へ排泄されるペプチドは内因性のものであり、その排泄量を定量すると、体のタンパク質分解の状況を定量的に把握でき、その結果から、体のタンパク質代謝の状況を定量的に理解できることを示してきた。今回の研究では、数百種にものぼると推測されるこの多数の尿ペプチドのいわばフィンガープリントとも呼ぶべき分別定量法を開発し、可能ならば、特定の組織や細胞に由来するペプチドを同定し、そのペプチドの起源となる組織や細胞の活性を推測する手段を開発しようとした。この計画は、技術的に多大の困難が予想されるが、成功すれば、例えば特定のがん組織の成長を量的に把握できるなどの革新的な手段を得ることになる。 以上の目的を達成するため、尿ペプチドをキャピラリー電気泳動法により全体を把握できる分別法を開発した。その結果、リン酸-ホウ酸系緩衝液、ギ酸-アンモニア系緩衝液などによって、計画どおり、いわばヒトの尿ペプチドのフィンガープリントとも呼ぶべき基本的な分析法を開発することができた。ギ酸-アンモニア系緩衝液では、試料をそのまま質量分析計に導入することができた。この結果は、男女で差がほとんどみられないことから、ヒトのペプチドの基本的なパターンを示していると判断される。さらに、動物実験を行って、カドミウム摂取が尿ペプチド排泄に及ぼす影響を調べ、カドミウムの毒性発現と尿ペプチドの排泄の結果を関連付けることができた。今後、さらにがんの診断などへの応用の可能性が拓かれたものと考えている。
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