今年度は予備的な実験として、黄土高原において採取した油松(Pinus tabulaeformis)、ニセアカシア(Robinia pseudo-acacia)、遼東ナラ(Quercus liatungensis)、沙棘(Hippophe rhamnoides)ほかの樹種の年輪試料の年輪幅を測定すると共に、各年輪を春材と夏材に分けて粉砕し、δ13Cを測定した。 その結果、油松およびニセアカシアの春材のδ値は年輪形成年およびその前年の降水量と、夏材のδ値は年輪形成年の降水量と高い相関が得られた。このことから、年輪形成時の土壌水分条件が、黄土高原に生育する樹種の年輪中の炭素同位体比に大きな影響を与えることが明らかにされた。また、生育地の降水量の異なる2地点の油松は、降水量の差異に対応したδ値の差を示したことから、油松のδ値から、地域の年降水量を推定できる可能性が示された。 また、δ値の平均値からみた水利用効率は沙棘が最も高く、ニセアカシアはもっとも低かった。このことは、光合成および蒸散の既往の測定結果とも一致した傾向であった。 一方、年輪のδ値は、降水量のほかに、樹高成長経過に伴って変化する傾向も認められた。これについえては、高さによる大気中の二酸化炭素のδ値の変動と、成長に伴う林分の水分消費増大による土壌水分の減少との両者の影響によるものと考えられた。 以上の結果は、年輪中の炭素すべてについての値であるため、年輪間を移動する樹脂成分や柔細胞内容物も含まれている。これらの影響を除外し、年輪間を移動せず、かつ年輪内の成分比による影響を受けないホロセルロースの同位体比を求めるため、微量な成長錐資料からのセルロースの効率的な抽出法の確立を行った。来年度はホロセルロースのδ値の年輪間、樹種間の比較を行う予定である。
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