中国黄土高原は年降水量200〜600mm前後の半乾燥地であり、原植生は森林および草原からなると推定されているが、有史以来の農耕や牧畜によって植生は破壊され、ほとんどが畑および牧草地となっている。降水は夏季に集中するため、浸食を受けやすい黄土丘陵には大規模なガリーや崩壊が発達し、砂漠化の危険にさらされている。 本研究では、黄土高原のうちもっとも黄土が厚く堆積しており侵食量も大きい陜西省北部地域を対象とし、そこに生育する樹木の耐乾性機構を調べるために、植生調査および標本の採取を行った。植生は、陜西省の南から北に向かって降水量が減少するにつれて単純化し、森林の現存面積も減少した。南から北へ、宜君、黄陵、安塞、楡林の各地点においてコドラート法による植生調査および植物採集にもとづくフロラ調査を行った結果、アブラマツ(Pinus btabulaeformis)や小葉楊(Populus simonii)をはじめ、多くの樹種が健全に生育していることが確認された。また、モウス沙漠に隣接する黄土高原の北端にあたる楡林においては、流動砂丘も多くみられたが、植林されたポプラ類やビャクシン類などの生育は旺盛であった。 また、現地調査(2003年9月)と並行して、各地気象台において過去20年間の月平均気温および月降水量のデータを収集した。 現地調査において複数地点においてみられた代表的な樹種から円板または成長錐コアを採取し、年輪の春材と夏材に分けて、年輪幅を測定するとともに、セルロースを抽出して、炭素安定同位体比を測定した。残念ながら、SARS流行のため現地調査が約半年遅れたため、安定同位体比の測定はアブラマツ1個体のみしか終了していないが、福田ら(2001)においてセルロース抽出をおこなわない全年輪試料において確認した年降水量と炭素安定同位体比の対応関係は、セルロース抽出をおこなった場合にも同様の対応を示すことが明らかにされた。 一方、年輪幅に基づく成長解析の結果、年輪成長は当年の降水量および気温とは明確な関係がみられず、前年の気象条件等を加味した解析が必要であると考えられる。 以上の結果は、2004年4月に行われる日本林学会大会において発表するとともに、残るサンプルの分析を行い、学術雑誌へ投稿する予定である。
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