研究概要 |
森林生態系からの有機物のアウトプットは,主に渓流から溶存態あるいは非溶存態の粒子状有機物として流出する。これらの有機物は,河川,湖沼,海岸沿岸部などの生物に利用され,水圏生態系にインプットされるエネルギーとして重要である。本研究の目的は,森林生態系を移動して流出する溶存有機物を溶存有機態炭素(DOC)としてとらえ,DOCのうち森林土壌において土壌微生物に消費される性質をもつ溶存有機態炭素(BDOC)を把握することにある。本年度は,スギ・ヒノキ壮齢人工林小流域において降雨の移動に伴うDOCの動態特性を調査した。本調査地においてスギおよびヒノキ林とも,A_0層の通過でDOC濃度は劇増し,表層土壌において激減した。また,DOCフラックスは高温・多雨の生育期に多かった。これらの結果から,A_0層で落葉落枝からのDOC生成が著しく,表層土壌で活発な微生物活動によって急激に消費されることが示唆された。また,DOC生成が著しいA_0層における微生物活性を調べるため,本州の太平洋側で代表的なスギ,ヒノキ,アカマツ,ケヤキ,ミズナラについて,分解程度の異なるリター(L-F_1,F_2,F_3,HA画分)および鉱質土表層(0〜5cm)を採取し,微生物体炭素(MBC),30日間の培養実験でのCO_2放出速度(炭素無機化)およびDOCに相当する水溶性有機態炭素(WSOC)濃度の調査をおこなった。WSOC濃度はL-F_1画分で最も高く,分解の進行に伴い急速に低下し,また広葉樹が針葉樹の3倍であった。MBC濃度はF_2またはF_3画分で最も高かった。炭素無機化速度が最大となる画分は樹種によって異なり,L-F_1〜F_3画分であった。WSOC濃度と炭素無機化速度との間にHA画分および鉱質土表層では強い正の相関が認められた。なお,作成したBDOC測定装置は調整中であり,平成14年度では成果を公表する段階に至っていない。
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