研究概要 |
近年,土壌微生物の呼吸基質として溶存有機態炭素(DOC=Dissolved organic carbon)が機能し,その呼吸速度を規定するという指摘がなされ,本研究でも本州の太平洋側で代表的なスギ,ヒノキ,アカマツ,ケヤキ,ミズナラのA_0層においてその強い正の相関を認めている。また,昨年度,森林においてDOC濃度が,降雨<林内雨<A_0層通過水の順に高くなるが,A_0層通過水から土壌表層で2分の1に低下することを明らかにした。DOC濃度が低下した理由は,土壌微生物の呼吸による消費と土壌への吸着が考えられるが,その構成比は明かでない。 以上のように,DOCのうち土壌微生物の呼吸速度と強い関係があるのは,易分解性DOC (BDOC=Biodegradable DOC)であるが,森林土壌系におけるBDOCのデータはまだ世界的にも少ない。昨年度から本研究では,BOOC測定装置のバイオリアクターの作成・調整をおこなっている。バイオリアクターは,タンク(微生物培養液又は分析試料入れ),ポンプ,カラムの3つの部分から成る。カラムとは,細長いガラス管に微孔性の発泡ガラスビーズを詰め,微生物を定着させた微生物フィルターとして用いる。今回は,上述のスギ,ヒノキ,アカマツ,ミズナラのA_0層抽出水を培養液として各3連,計12連を作成した。培養開始後,一定間隔で100%BDOCのグルコースを測定し微生物の定着を確認した。BDOC測定にはグルコースが90%以上分解されるまで,微生物を培養・定着させる必要がある。温度,流速,培養液濃度などを変えた試行錯誤の末,温度は20℃以上を保ち,流速は培養時0.25,測定時0.37ml/min, DOC濃度は10mg/Lに調整すればよいことがわかった。来年度は,この手法を用いて現地から採取した試料のBDOCを測定し,樹種間や季節による差異を明らかにして行く。
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