本研究は3年間の研究計画であり、前年度の結果を踏まえ2年目の調査・研究を行った。前年同様に本研究でこれまで詳しく調査されてきたオヒルギを主な研究対象樹種とし、併せてメヒルギ・ヤエヤマヒルギについても調査・研究が行われた。 調査は沖縄島金武町億首川のマングローブ林を中心として実施され、定期的にフィールドでの観察調査が実施された。 オヒルギは周年開花しているが7月〜10月の開花数が多く、特に8月が開花最盛期であった。しかしながら、6月〜12月に開花したものだけが結実し、1〜5月に開花したものは結実しなかった。しかも、それら結実しない花では、葯は裂開することがほとんどなく、葯に含まれる花粉粒数も減少した。 6月〜12月に開花したものも、開花直後には花弁に包まれた雄蕊は裸出せず、葯もほとんど裂開していなかった。開花後の花弁の裂開には大型の昆虫の訪花が必要とされ、それらの訪花により、花弁が裂開して、雄蕊が裸出し、それと同時に花粉が飛散した。花粉袋をかけて昆虫の訪花を妨げると5%以下の結実率であった。オヒルギの花の形態と自然状態では雄蕊が裸出しない仕組みであることから、昆虫や小鳥による花弁の裂開と花粉の飛散がなければ、受粉が促進されないものと考えられた。また、低い割合であっても自家受粉で結実可能なシステムをもっていることは、本種が少数の個体群であっても群落を維持可能とし、そのことによって本種がマングローブ分布の北限近くでも群落の維持をさせていると示唆され、これまでに報告されたことのない新しい知見が得られつつある。 最終年度は平成15年度に得られた新知見を更に詳しく検証するために、オヒルギだけではなく、より詳細に周年調査を実施し、訪花昆虫の樹種間の違い、自家受粉の割合、人工交配等を実施することにより、開花フェノロジーの把握、風媒・虫媒・鳥媒・自家受粉などの受粉機構の解明に関する予定である。
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