本年度は3年間の研究計画最終年度であった。調査は沖縄島金武町億首川のマングローブ林を中心に実施され、定期的にフィールドでの観察調査と試料の採取を実施したが、平成16年は台風の影響が大きかった。オヒルギは周年開花していたが、夏季の6月から冬季の12月の間に開花したものだけに結実が見られた。それ以外の時期である1月から5月までの花では、葯は裂開することがほとんどなく、しかも花粉の発芽能力も極めて低かった。 蕾の裂開前に花粉袋をかぶせて訪花動物(ポリネーター)の訪花を妨げると、萼片が開いた後に花弁も裂開した花はわずかに7.8%であった。それに対して花粉袋をかけていない無処理の蕾では96.0%の花で、萼が開いた後に花弁も裂開、すなわち葯が裸出して花粉が飛散していた。比較的大型のクロアナバチやリュウキュウメジロの訪花は花弁を裂開して、葯を裸出させ花粉の飛散を促した。しかしながら、同じ訪花昆虫であっても小型の昆虫や口吻をのばして吸密するホウジャク類は、花弁を開花させることがほんどないことから、花粉媒介者としての役割は小さいものと考察した。また、花粉袋をかけても8%程度の花で花粉が飛散したことから、自家受粉の可能性が示唆された。 一般に木本植物はこれまで自家受粉しないものとされたが、マングローブの中でも、ヒルギダマシについてはDNA解析を用いた研究で自家受粉によっての結実が知られている。本研究でのDNA解析の結果でも低い割合であるがオヒルギとメヒルギで自家受粉による結実が推測可能であった。 以上の結果から、低い割合であっても自家受粉で結実できる受粉機構をもっているオヒルギやメヒルギは、少数の個体であっても移住や個体群維持を可能とさせ、マングローブ分布の北限近くで群落を維持させているものと考察した。
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