研究概要 |
キラル分離相を形成する高分子材料としてセルローストリフェニルカルバメートを用い、このセルロース誘導体をシリカゲル上にコーティングする際の履歴効果が、結果として対掌体の分離にどのように影響するかを検討した。酢酸セルロースをコーティングする場合、用いる溶媒の違いによって、対掌体の溶出順序が異なるとする柴田らの報告(T.Shibata et al.Chromatographia,24,552-554(1987))を基にして、そうした挙動をさらに広範に把握することを目的として研究をおこなった。 まず、セルローストリフェニルカルバメートをSchroederらの方法に従って合成し、これが既往の報告に掲載されている溶媒によって液晶を形成するかどうかを確認した。通常の1回の合成では、うまく行かず2回繰り返すことによりコレステリック液晶を与えるセルロース誘導体を得ることができた。誘導体の重合度が液晶形成に影響を与えていると考えられる(未確認)。コレステリック液晶の確認は偏光顕微鏡による光学組織の観察、UV、CDなどにより行った。メチルプロピルケトン、ジグリムなどの溶媒では、可視光の波長領域に選択反射が認められ、コレステリック液晶を形成していると確認した。 得られたセルローストリフェニルカルバメートをメチルプロピルケトン(MPK)やジグリム(DIGLYME)の希薄溶液(10%)とし、粒径7μmの多孔性シリカゲル(平均孔径100nm)上に添加し、溶媒を溜去した。沸点の低いMPKの場合はドラフト中で、沸点の高いDIGLYMEの場合は減圧乾燥により、ともに1週間以上の時間を掛けて徐々に乾燥を行った。こうして調製された充填剤をステンレスカラムに充填して自作キラルカラムとし、HPLCによる光学分割能の評価に供した。 MPKでコートした自作キラルカラムは、理論段数、分離係数ともに市販カラムに匹敵するものが得られた。他方、DIGLYMEはコーティング時の溶媒乾燥が困難なためか、分離性能が著しく低かった。この分離結果を基に対掌体の溶出順序を判断するのは難しいが、基本的には供試した化合物では溶出順序の違いは認められなかった、すなわちキラル分離相の履歴効果の影響は見出せなかった。
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