研究概要 |
研究の要素は、(1)高温乾燥過程における木材の力学挙動を再現する破壊力学試験法の開発、(2)実機高温乾燥における乾燥割れの発生の特徴の把握、(3)乾燥中の木材水分傾斜の測定法の改良、(4)破壊力学的手法による割れ発生と進展の機構の解析である。 1.ガラスセルと高温耐湿型ロードセルを組み合わせ、高温環境下で乾燥応力によって自ら試験体を破壊に誘導する破壊力学実験装置を試作した。破壊靭性値は常温で約0.8MN/m^<3/2>,高温乾燥では約0.18MN/m^<3/2>に低下し、およそ1/4程度に減少した。常温では割れが晩材を貫通するとこに大きな応力低下を示し、割れの進展と停止を繰り返しながら拡大したが、高温では応力低下はわずかであった。 2.模擬実験および実機乾燥による割れ発生の観察から、割れの進展段階は、まず晩材部にミクロな割れが発生し、それが両側の早材部を貫通し複数の年輪に拡張して肉眼的な乾燥割れに発展する、き裂の拡張過程である。わずかにずれたミクロ割れの連結により「稲妻割れ」が生じた。 3.高周波容量測定で、電極を試験体の周囲を周回させることにより、木材断面の水分分布を推定する方法を導いた。誘電率の温度依存性が大きいので、乾燥機内への応用には今後改善する必要がある。 4.乾燥割れの停止は、乾燥の進行による、き裂進展抵抗の増加(破壊靭性値の増加)によりおこる。木材中に割れが発生する力学環境は、粘弾性要素を介して負荷する粘弾性要素付き変位制御型モデルで表現される。乾燥中のクリープおよびき裂進展抵抗の増加により、実際の乾燥では不安定な終局破壊には至らず、乾燥割れの停止がおこる。高温乾燥における表面割れの抑制は破壊力学的に説明できるが、内部割れが発生しやすくなる機構については、説明できるまでにはいたっていない。
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