研究概要 |
引張あて材の特異的な性質が何によって引き起こされるのかについては幾つか議論があるが,そのうちでもゼラチン層(G層)の性質に帰する考え方が近年有力であり,かつ説得力がある.本研究課題では,とくに特異的な引張の成長応力の発生とそのバイオメカニックス的意義,乾燥による高い軸方向収縮率,また軸方向ヤング率の増加など,従来から多くの研究者が注目している挙動に着目し,その発生機構をゼラチン層の挙動に求めた.その結果,以下のことが知られた. (1)繊維力学モデルを用いたシミュレーションでは,G層の挙動が引張あて材の特異な性質の原因を引き起こすことが最も合理的な説明である.また,繊維力学モデルは細胞壁構成要素の力学物性を数値実験的に予測する上で,有用なツールとなる. (2)実験データの解析により,G層には結晶性のセルロースミクロフィブリルのほか,非結晶性多糖類のマトリックスが存在し,これが生材中では膨潤性のゲルを構成しているらしい.乾燥の結果ゲルは水素結合によって凝縮し(キセロゲル化),結果としてG層の大きな乾燥収縮が生じ,またヤング率の急激な増加が引き起こされる.一方,木化細胞壁ではリグニンの存在によって,キセロゲル化は抑制され,G層のようなダイナミックな変化は生じ得ない.この予測は,エックス線回折法による[200]面および[004]面間隔の含水率依存変化によっても支持される。 (3)水分保持状態で加熱すると,G層は軸方向に大きく収縮する.,これは,水膨潤ゲル領域が示すゴム弾性によるものと考えられる.
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