研究概要 |
本研究は、外生菌根菌の胞子発芽時と菌根形成初期段階における脂質代謝調節機構の解明を目的とした。菌根形成初期段階における外生菌根菌の脂質利用のモデル実験として、外生菌根菌(15属32種55菌株)のパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸および、脂質トリオレイン炭素源における生育量を、グルコース炭素源における生育量と比較した。概ねグルコース炭素源での生長がより高かったが、脂質、脂肪酸における生長量の方がより高い菌株もあった。脂質利用能力において、科、属レベルでの違いが見出された。 この結果、外生菌根菌は脂質、脂肪酸炭素源を利用して生育は可能であるが、生育量は菌の種類により差があることが知られた。 そこで、脂質トリオレイン、トリオレインとグルコースの共存、グルコースの3炭素源系で外生菌根菌ウラムラサキを培養し、誘導される酵素の種類を比較検討した。まず、トリオレイン炭素源系ではAcyl-CoA dehydrogenase (ACDH)、とグリオキシル酸回路の鍵酵素の一つであるイソクエン酸リアーゼ(ICL)が誘導された。さらに、リンゴ酸合成酵素(MS)比活性も、グルコース炭素源よりトリオレイン炭素源において高かった。さらに、グリコーゲン、トレハロースとグルコースの蓄積量は、トリオレイン培地において急速に減少し、その後増加しなかった。さらに、これら3酵素はグルコースによるカタボライト抑制を受けた。したがって、自然界では、外生菌根形成初期過程において、もし宿主植物から脂質が供給された場合、脂質代謝に関わる酵素の誘導はカタボライト抑制のため一時的なものであり、指質の利用は一過性であると考えられる。 一方、外生菌根菌胞子において、ICL, MS, ACDH活性が検出され、脂質代謝が起こっていることが示唆された。 胞子発芽を促進する培地条件は見出されたが、発芽時の活性変動に関し今後さらに検討したい。
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