研究概要 |
本研究は,仮道管内腔中を浸透する液体の様子を直接可視化して連続観察することにより,従来法と異なる観点から木材中での液体の浸透機構を明らかにしようとしたものである。実験には,ヒノキ,ベイマツ,スギの心材を用い,予め4通りの前処理(無処理材,熱水抽出処理材,横圧縮処理材,熱水抽出・横圧縮処理材)を施した材について,減圧度0〜90kPa範囲の5段階の減圧下で液体の浸透,流動の動的観察を試みた。得られた結果は,次の通りである。(1)木材中の液体浸透は,浸透→停止→浸透→停止の繰り返しによって行われ,ガラス毛管中の液体移動とは基本的に異なる。木材中の浸透速度はガラス毛管中のそれの1/20程度である。また木材中の液体浸透挙動は,樹種によって,また前処理の方法によって異なる。(2)ヒノキ各種前処理材の液体移動は,仮道管内腔表面を拡張ぬれが先行する特異な挙動で推移することを見いだした。抽出処理材の減圧下の液体流動は,仮道管中での気泡の発生が著しく,液層-気相-液層-気相の層状の形で液体が浸透した。これはヒノキ材の場合,内腔表面のぬれが極めて良好であることを裏付ける。(3)ベイマツ材の液体浸透の不良な原因は,らせん肥厚位置での浸せきぬれに続く拡張ぬれが必要であることに加え,抽出・圧縮処理で大きく改善されることから,強固な閉塞壁孔の存在,界面のぬれの不良が浸透阻害要因として関係していることが示唆された。(4)スギ心材では,抽出・圧縮処理においても液体浸透先端部のメニスカスが,フラットで液体進行にかなりの長時間を有することから,ある程度液体浸透通路は確保されているが,その位置での液体の進行にかなり大きい阻害要因が存在することを認めた。(5)各種前処理材の液体浸透の連続観察から,木材中の液体浸透の阻害要因を考察列挙するとともに,樹種毎の浸透性を規制している因子の定量的考察が今後の課題である。
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