研究概要 |
ホタテガイ血球トランスグルタミナーゼ(TG)の生体内基質として,血球タンパク質230kDa,210kDaおよび100kDa成分を同定した。ついで,一次構造解析を行ない,230kDa成分についてN末端9残基とBrCN断片6成分の7-12残基の配列を明らかにした。一部にフィラミンとの相同性が認められたが230kDa成分は新規タンパク質の可能性が高い。210kDa成分はN末端がブロックされており,BrCN断片42kDa成分の8残基のみ解析できた。100kDa成分はN末端12残基とBrCN断片CN-30k,15kDaの各15残基の配列を決定したが,CN-30kDa成分の配列が既知TGと高い相同性を示したことから本成分は酵素自身と推定された。 本研究では,ホタテガイ血球の細胞凝集の様子を解析するために,はじめてマイクロチャネルアレイフローアナライザー(MC-FAN)を利用し,軟体動物血球のヘモレオロジー観測を行なった。ヒト全血測定用のチップで試料通過時間を計測した結果,個体差が大きいものの,試験全体の傾向としてTGの作用する人工海水下の方がEGTA-人工海水下よりも血球通過時間が長く,ビデオ映像でも大きな凝集塊が確認でき,濁度低下も確認された。但し,EGTA中で作用する微生物TGが濁度に影響しなかったので,酵素よりもカルシウムイオンが血球凝集の主因である可能性も考えられた。 また,汽水産ヤマトシジミに海産型と淡水産型のTGアイソザイムが存在することを確認した。これはヤマトシジミが塩濃度環境の変化に適応した結果であり,TGが細胞内ではなく細胞外で作用している可能性を強く支持した。 以上の結果,軟体動物二枚貝類のTGは細胞外環境で血球成分を架橋重合し血球凝集を通じて創傷治癒に関与していることが示唆された。今後はcDNAクローニング等により酵素および基質タンパク質の全構造解析が必要と思われる。
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