研究課題/領域番号 |
14560143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武田 重信 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (20334328)
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研究分担者 |
小瀧 裕一 北里大学, 水産学部, 助教授 (30113278)
福代 康夫 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 教授 (10165318)
古谷 研 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (30143548)
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キーワード | 記憶喪失性毒 / Domoic acid / 鉄 / 珪藻 / Pseudo-nitzschia / 有機配位子 / 増殖速度 / 欠乏ストレス |
研究概要 |
記憶喪失性毒domoic acid(DA)生産能を持つ沿岸性珪藻Pseudo-nitzschia multiseriesを越喜来湾から分離して培養株を作成し、鉄濃度を0.5〜100nMの10段階に設定してバッチ培養実験を継続して行い、増殖を制限する鉄濃度を詳細に検討した。P.multiseriesの増殖は、培養液中の無機鉄イオン濃度(有機配位子として添加したEDTAとの化学平衡およびFeEDTAの光還元による2価鉄イオンの生成を考慮して算出)が0.5nM以下になると制限され、0.1nMにおいて比増殖速度が最大値の約半分にまで低下した。この増殖を制限する無機鉄イオン濃度は、他の沿岸性珪藻と同様なレベルにあったが、無機鉄イオン濃度が0.02nM以下になると、一般的な沿岸性珪藻はまったく増殖を示さないのに対して、P.multiseriesは0.2-0.3d^<-1>程度の比増殖速度を維持することが明らかになった。 次に、DAの存在が低い鉄濃度条件下におけるP.multiseriesの増殖に寄与しているかを明らかにするために、鉄制限下の培養株にDAを添加したところ、比増殖速度に明瞭な変化は認められなかった。 また、真核植物プランクトンの鉄取り込みを阻害する鉄キレート物質のデスフェリオキサミンBを過剰に添加して鉄制限を強化したところ、P.multiseriesの比増殖速度は低下せず、逆に約2倍に増加した。この時、細胞のDA含量には明瞭な変化は見られず、培養液中のDA濃度は検出限界以下であった。 従って、鉄欠乏はP.multiseriesのDA生産要因の一つとなり得るが、著しい鉄欠乏状態に移行すると、有機錯体鉄を効率的に取り込む機構を発現する可能性がありこの取り込み系の変化はDAの生産量増加もしくは細胞外放出を伴わずに起こりうるものと結論された。
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