本年度は相模湾産深海性軟骨魚類に関して、3つの研究課題に取りくんだ。第1に、深海性サメ類、特に多獲されるフトツノザメの年齢と成長を明らかにすべく、従来の第2背鰭棘のエナメル質に加えて、棘を切断した際の断面に表れる輪紋を年齢形質として取り上げたところ、エナメル質に基づく年齢査定より正確であることが判明した。すなわち3回の読み取りで輪紋数の一致度合が飛躍的に向上した。また、従来エナメル質の解析では年輪であることの証明ができずにいたが、本年度は月別の暗帯出現率を調べて年1回ピークが表れることから、暗帯は年輪である可能性が極めて高いことが判明した。von Bertalanffyの成長式を求めたところ、Lt=1393[1-exp{-0.05(t-t_0)}]となり、最高齢は21歳であった。第2に、昨年度に引き続き、食性と窒素と炭素の安定同位体比を用いた食位置の解析を行った。まず、食性は種類により、主要な餌生物は異なるものの、全般的にどの種類も魚食性が強いことが判明した。本年は従来のツノザメ類に加えて、ドチザメやホシザメのような沿岸性の強い魚種の食性と安定同位対比も解析した。どの種もδ^<13>Cの値は-17.5〜-12‰におさまるものの、ドチザメやホシザメはより沿岸性由来の食物源を示すのに対し、ツノザメ3種は外洋に由来する食物源に依存するする食地位を示した。δ^<15>N値では、ツノザメ類はホシザメやドチザメよりは小さい傾向があり、食物源が異なることが示唆された。また、ツノザメ3種間でもδ^<15>N値は異なること、また成長段階でも差があることがわかった。第3に、軟骨魚類の寄生虫に関し調査を行った。特に、寄生性カイアシ類を調べたところ、寄生虫出現率や大きさに季節性がみられ、カイアシ類が何度か宿主を離れ、成長後にまた寄生する可能性が示唆された。また、単生類は、分類学的再検討を行う必要があることがわかった。
|