本研究を基に、天然のトリグリセリド(TG)分子種の中でもとりわけ複雑な構造を有する魚油TG分子種の定量方法を確立した。その定量方法の分析条件を以下にまとめる。 一昨年までの研究で、魚油TG分子種の定量分析条件として、 ・分析装置:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)-紫外検出器(UV)装置(波長:210nm) ・カラム:トリアコンチルカラム(C30)のタンデム結合 ・移動相:アセトニトリル(ACN)-アルコール(エタノールもしくは2-プロパノール) ・アイソクラティク溶出法 を確立した。この条件で得られる検量線は傾きが一次であり、この点が実用面で大きな長所となったはずであった。しかし、実際に使用すると、1)飽和脂肪酸を分子内に含むTG分子種において、検量線の傾きが小さくなること。2)一回の分析にかなりの時間を要する。などの欠点が問題となり、天然油脂中のTG分子種の定量には改良が必要となった。そこでグラディエント溶出法を用い、短時間で終了する分析条件の検討を行った。その結果、UVと蒸発光散乱検出器(ELSD)を直列に接続したHPLCで、内部標準物質(ジリノレン)を用いたグラディエント溶出法で、魚油TG分子種の分離が良好で、検量線が一次の傾きを示さないながらも再現性の高い検量線(相関係数が0.99以上の指数関数)を得ることが出来た。この分析条件を以下に示す。 ・HPLC-ELSD装置(波長:210nm) ・カラム:トリアコンチルカラム(C30)のタンデム結合 ・移動相:ACN-2-プロパノール(IPA)溶出法 ・グラディエント条件:0min ACN:IPN=60:40→50min ACN:IPN=50:50→80min ACN:IPN=60:40→100min ACN:IPN=70:30→120min終了 ・内部標準物質:ジリノレン この条件を使用して、メバチマグロ、およびサクラマス体油中の主たるTG分子種の定量分析を行った。その結果、TG分子種の定量が行えることが判明した。さらに、これまで一般に、TG分子種の存在量を示すときに使用されてきたUVおよびELSDのクロマトグラム面積比と実際のTG存在量は必ずしも一致しないことが明らかとなった。これらのことより、各TG分子種の存在量を知るためには本研究で開発したTG分子種定量方法が有効な方法であると結論づけた。
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