研究概要 |
海産サメ類はタンパク質変性である尿素を体内に0.3M含有しているにもかかわらず,硬骨魚類と同等の生命活動を維持することができる。これは海産サメ類が尿素抵抗性の機構を有しているためとされる。本研究は,同じサメ類であるが体内に尿素を含有していないために,尿素抵抗性を示さないと推測される淡水エイと海産サメ類のドチザメを比較することにより,ミオシンの尿素抵抑性の分子機構の解明を試みたものである。淡水エイ,ドチザメおよびコイの各筋原線維の尿素存在下におけるMg^<2+>-ATPase活性を微量タンパク質で測定できるKodama et al.,(1986)の改良マラカイトグリーン法で調べた結果,ドチザメは生体内尿素濃度である0.3M付近で活性化を受け,尿素濃度の上昇とともに活性が低下した.これに対して,コイのそれは尿素が微量に存在するだけで失活が始まり,尿素の影響を大きく受けた.淡水エイはドチザメ程の尿素抵抗性を示さないものの,コイのように大きな失活も示さず中間的な傾向を示した. 淡水エイ骨格筋ミオシンのcDNAクローニングにより1788アミノ酸残基の配列が決定された。ミオシン重鎖S1領域の必須軽鎖結合領域内にあるN末端側から785-793残基は,両サメ類のみが硬骨魚類に比べ強い親水性を示し,逆に同領域内の797-799残基は,両サメ類のみが強い疎水性を示した。また,S1領域のATPおよびアクチン結合部位近傍の685-693残基の親水性疎水性指標は,淡水エイがドチザメと硬骨魚類の中間を示す傾向にあった。これらの領域はATPase活性ドメインに近く,尿素抵抗性との関連性が示唆された。またドチザメ・ミオシンのN末端アミノ酸配列分析から本ミオシンの演繹アミノ酸配列は実際のタンパク質のアミノ酸配列を示していることが実証された。得られた結果は海産サメ類の尿素抵抗性の分子機構の一端を解明するものである。
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