研究概要 |
本申請研究は、Pseud-nitzschia multiseriesの単種、無菌培養問でのgrowthの差から出発して、定常期以降のエネルギーが枯渇した時期に同種がheteritrophicなエネルギー獲得を行う際にドウモイ酸生産が起こる可能性を実証すべく、まず本種のドウモイ酸生産が光合成活性に依存しないことの証明を試みた。その結果、1)単種培養においては溶存鉄の枯渇に呼応するようにドウモイ酸が急激に増加した。また定常期に達し鉄が枯渇した培養に鉄-EDTAを添加するとドウモイ酸生産は抑制された。無菌培養の場合は溶存鉄が枯渇してもごく微量のドウモイ酸しか生産されなかった。また溶存鉄枯渇後の藻体の鉄含量は単種培養の方が増加し続けたが無菌培養では増加しなかった。これらはドウモイ酸の生産と鉄の枯渇との密接な関係およびその際の細菌の重要な働きを示唆する。2)同種の無菌株を、分画分子量約12,000の透析膜で細菌と隔てて培養した場合、ドウモイ酸の生産は認められなかったが、それより分画分子量の遙かに大きな0.2...mのメンブレンフィルターで隔てた場合にはドウモイ酸の生産が見られた。3)本種の単種培養を遮光するとドウモイ酸生産が停滞したが、遮光中の培養にATP、NADP、NADPHなどをそれぞれ添加してもドウモイ酸生産の上昇は認められず、本種のドウモイ酸生産は光合成依存的な可能性が示唆された。 以上より、ドウモイ酸隼産は珪藻の生命維持に不可欠な鉄の取り込みに関連して起こるが、その過程は単純ではなくある程度分子量の大きいシデロフォアが細菌と珪藻の双方の関わりで生産され、鉄とともに珪藻に取り込まれ分解される過程で生成してくるという仮説を再構築するに至った。
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