初年度は、主に戦時体制期の農業・農村組織化について研究をすすめた。『戦時農政資料集』の整理を通じ戦時体制下の増産政策と農民組織化の関連を明らかにすること、および『農業と経済』誌掲載諸論考の整理・分析により戦時体制期の農業問題に対する認識と争点に関する整理を行った。いずれも現時点では頁数等が不明のため、「研究発表欄」にはあげなかったが、前者については「総力戦体制と増産政策」、後者については「総力戦体制下農業問題の諸論点」と題して2003年度中に刊行予定である。 総力戦体制期農業・農村組織化に固有の現象として抽出した主な論点は、(1)「技術から経済へ」がスローガンであった昭和恐慌期とは違い、再び(というより明示的に)技術・生産力問題が中心ロジックにすわったことであり、(2)その端的な反映として、恐慌期に倍して配置された農会技術員と、大量に政策サイドが組織化した篤農層が人的中心を担ったことであり、(3)農業・農村および増産のもつ国家的意義が鼓吹され、新聞・ラジオ・映画等のマスメディアが大量に動員され、いわば「国民的運動」として取り組まれたこと等であった。これらは、農民・農村の「自発性」を喚起することに大きな成果を収めたが、他方総力戦体制は、(4)一方では極端な傾斜生産(航空機を中心とする軍需生産への特化)と、(5)他方では、複雑で膨大な統制実務を生み出すことにより現場担当者を忙殺させ、双方あいまって組織化効果を消滅せしめることになった。
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