本研究において得られた主な知見は以下のとおりである。 1)今日、世界農業の競争力は構造政策を達成できたか否かに基づいており、いずれの国においてもその遂行が至上命題になっている。しかし、社会的経済的条件は異なっているため、市場原理に基づいた構造政策がどの国でも有効であるわけではない。 われわれは、この政策の必要性や有効性により、世界農業を次の4つの類型に区分することができる。それは、(1)構造政策不要地域、(2)構造政策達成地域、(3)構造政策不能地域、(4)構造政策未然地域であり、日本と多くのアジア諸国は(3)類型、すなわち構造政策不能地域に属している。 2)明治維新以降、急速な近代化に起因する種々の農業・農村問題が惹起した。大正時代に入り、かかる諸問題は各種の対抗運動を農村に発生させた。小農民たちの生活や社会を守るための小作争議や農家小組合運動などがそれであり、これらの運動は大きな成果を収めた。 これらの運動は、ムラとよばれる地域組織に依拠しておこなわれた。ムラは、江戸時代に出自をもつある種の共同体的集落であるが、注目すべきことは、これらのムラが近代社会に対応できるようにリニューアルされたことである。これらの運動は、とくに土地所有や土地利用の調整に大きな力を発揮した。 3)このような日本農業の歴史的経験は、いわば日本型の農業構造改善方策に関するヒントを提供してくれる。かかる日本的個性を一言でいえば「組織化」と表現できるが、これは西欧社会における「市場競争」に依拠した構造政策との対比において位置づけられよう。そして、「組織化」に依拠した構造政策は、先に示した(3)構造政策不能地域に属する多くの国における有効な方策となるであろう。
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