研究概要 |
研究代表者は、人類にとって3大重要穀物であるコメ、小麦、トウモロコシの間でコメの貿易市場が特に非常に薄く、不安定で頼りにならないこととアジア諸国のコメ自給政策との関係の経済分析を行ってきた。アジアの5億戸ほどの家族小農が世界のコメの90%を自給目的で生産していることが、世界コメ貿易市場を薄く不安定にしている第1の要因である。さらに、世界の飢餓人口8億人強の内5億人強が集中するアジアで、コメが主食で賃金財であり、米価と供給の不安定が政治的不安定をもたらすという意味で政治財であるから、アジア各国はコメの国内市場と世界コメ貿易市場とを国境政策で分離し、コメ自給政策をとって国内米価を安定させることに重点を置くから、貿易米価の変動は増幅される。このように薄く不安定な世界コメ貿易市場とアジア各国のコメ自給政策は相互補強的に作用してきた。だから世界コメ貿易市場は将来も薄く不安定であり続ける。アジア諸国はコメ自給政策に回帰する。貿易市場の集中度は3大穀物間であまり差がない。コメの場合商品標準化は小麦やトウモロコシほど進んでおらず、シカゴBOTのような先物市場も発達していない。故に小麦やトウモロコシの貿易市場は、コメと比べより厚く、安定性がより高い。WTO等でコメ貿易ルールを交渉する場合、これらコメの自給性、主食性、不安定性に十分留意しなければならい。 19世紀にはコメと小麦の貿易価格はほぼ同じであった。20世紀後半には小麦価格がコメの半分ほどになった。これは多分コメに比べより速い新大陸における小麦の生産拡大と技術進歩が輸入需要の増加を傾向的に凌駕した結果であろう。小麦のコメに対する相対価格は低下したが,貿易市場の寡占性と価格硬直性は高まったのではないかと考えられる。これら歴史的分析は残された課題である。 最終報告書と学術雑誌論文を発表した。
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