カナダとオーストラリアは合わせて、世界の小麦輸出量のおよそ3分の1を占め、国際穀物市場においてきわめて重要な位置を占めている。両国は国際穀物市場に占める位置が大きいだけでなく、国家貿易企業(CWB、AWB)が穀物輸出を独占的に担っており、アメリカとは大きく異なる穀物輸出の仕組みを維持してきた。両国の穀物輸出システムは近年大きく変わりつつあり、とくに国家貿易企業の改革の動きが急である。その主要な要因は、国内的には国家貿易企業に対する規制緩和と民営化の圧力の高まりであり、対外的にはWTO農業交渉への対応である。WTO農業交渉ではアメリカなど一部の輸出国が国家貿易企業による農産物輸出が貿易を歪曲するとしてその規制を求めている。 本研究では、カナダとオーストラリアの穀物輸出システムの比較検討をふまえて、1990年代後半における国家貿易企業の改革動向を子細に検討した。カナダ小麦局(CWB)は1999年1月から大幅な機構改革を行い、連邦政府の公社から「生産者と政府の共同企業体」に変わった。また、穀物販売と買い付け方式を弾力化できるようにした。オーストラリアの場合はさらにドラスティックであり、99年7月からオーストラリア小麦ボード(AWB)を民営化して、持株会社AWB Limitedのもとに小麦輸出、国内販売と小麦以外の穀物輸出、融資、試験研究などの子会社をもつ企業グループに再編された。にもかかわらず、(1)輸出独占のシングルデスクを継続していること、(2)穀物販売のプール計算方式の根幹を維持していること、の2点は両国とも共通している。 両国ともに国家貿易企業の行方は予断を許さないものがあり、カナダではCWBの輸出独占をめぐる論争はなお継続しているし、オーストラリアでも2004年7月にAWBのシングルデスクに関するレビューが予定されている。こうした動きがWTO農業交渉に少なからぬ影響を及ぼすと考えられ、今後も国家貿易企業の改革動向についてのフォローが必要である。
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