研究概要 |
本年度は,昨年度に引き続き,ため池および関係する水利施設の水理諸元を入手し,これらをデータベースとして整理した.データベース化された水理諸元をもとに,ため池システムによる洪水抑制効果を測定する場合のシナリオとして,(1)既存のため池システムが保持され,今後も現行の運用どおりに行われるとした場合,(2)既存のため池システムが,全く消失すると仮定した場合,(3)既存のため池システムが保持されるが,可能な限り流出抑制を行いうるように,ため池システムの運用を改変しうると仮定した場合の3つのシナリオに応じて,流出抑制効果のポテンシャルを示しうるため池システムの施設容量について試算した.すなわち,ため池システムにかかる水理諸元を昨年度に引き続き入手・計測し,ため池については堤長,堤高,満水面積,水深,有効貯水容量であり,用水路(ため池への導水路およびため池から用水路)については水路高,底幅,天端幅,水深,勾配,延長,施設容量をデータベース化した.このデータベース化された水理諸元をもとに,上記シナリオ(1)および(2)を比較するため,ため池システムの施設容量を試算し対比させた. さらに,研究対象流域には,階層的に管理運用されているため池群がみられることから,ため池群が階層的に管理運用されている一事例としてF池土地改良区を取り上げ,その貯水管理の基本ルールを聞き取り調査によって明らかにした.その結果,上流に位置するため池が親池と位置づけられており,下流の子池群の貯水使用状況を勘案しつつ適宜の放流が子池に対して行われていることがわかった.このことから,流出抑制機能を果たすと考えられるため池の空き容量としては,小規模ため池である子池のほうが親池よりも相対的に多く確保され易く,上記シナリオ(3)の設定にあたってはさらに検討を要することがわかった.
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