研究概要 |
平野部に位置するため池システムの流出抑制効果について計量的に評価し,流出抑制を行いうるためのため池の運用計画について検討することを目的とした. 対象流域として,S川(普通河川,D川水系)を選定した.同流域には計14個のため池を有している.ため池システムによる流出抑制効果を計量的に評価するために,以下の計算ケースを設定して流出解析を行った. Case A 既存のため池システムが保持され,今後も現行の運用どおりに行われるとした場合. Case B 既存のため池システムが,全く消失すると仮定した場合. Case C 既存のため池システムが保持されるが,可能な限り流出抑制を行いうるように,ため池システムの運用を改変しうると仮定した場合. 2005年8,10月の台風による時間降雨データをもとに,特性曲線法によりS川の流出モデルを作成し,現況での流出パターンを再現した(Case A).Case Bとしては,ため池および関係水路が宅地に転用されるものと仮定し,同時に,ため池の貯水容量およびため池導水路・送水路の施設容量が消失することによって,出水が流域内に一時貯留されないもの仮定した.Case BとCase AによるS川の流出パターンを比較したところ,ピーク流量においては大きな差は確認されなかったが,Case Aでは流出ピークの遅れが認められた.さらに,Case Cとして,非かんがい期(10月)では全てのため池において貯水を落水させると仮定し,かんがい期(8月)では各ため池の空き容量率を80%と仮定した.このようなため池の運用方式をもとに,出水を空き容量分だけ一時貯留することとし,Case AによるS川の流出パターンと比較したところ,ため池システムによる初期降雨の貯留効果および初期降雨による流出抑制効果が明らかとなった. 以上より,現行のため池システムでは,その施設容量のみでは洪水抑制効果は十分現れないが,ため池システムの運用方法を考慮することにより,初期降雨の貯留効果および初期降雨による流出抑制効果が期待できることがわかった.
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