本研究の目的は、これまで開発され普及してきた農業機械・機具の設計要素(機械形状、操作・操縦装置ならびに安全確認装置等の配置と操作・操縦性等)が高齢者・婦女子にとっても使い易い設計になっているかどうかを人間工学的手法(作業姿勢、操作反応速度、RPGやEMG、ECG、EEG等の医学的解析手法)を用いて明らかにすることと、安全で快適、かつ確実な操作・操縦のできる農業機械機具の合理的な設計要素を個々の農業機械・機具について明らかにする事である。特に、この2年間は乗用トラクタの座席とペダル配置に着目し、これらの設計要素の解明をペダル操作時の踏力の測定結果から明らかにした。また、踏力測定中の被験者のペダル操作姿勢を解析し、この姿勢解析結果から最適な運転姿勢を探求した。その結果、以下のことが明らかになった。 1.ダル操作時の踏力測定測定を身長の異なる男性9名(160cmグループ、170cmグループ、180cmグループ)を被験者として、トラクタ操縦席周りを再現した運転装置モデルを使用して行った。被験者が1分間最大の力で操作したペダル踏力を、ペダル軸の上下、左右方向、ペダル軸方向の3つの分力から解析した結果、もっとも操作性の良いペダル配置は、足の開脚角:15°(ブレーキペダル)、10°(クラッチペダル)、座席背面からペダルまでの距離:600mm(身長160cm)、700mm(170cm)、800mm(180cm)、座席の高さ:410mm、ペダルパッド傾斜角:40°〜60°(ブレーキペダル)、40°〜50°(クラッチペダル)の設置条件であることが明らかになった。 2.踏力測定直後に被験者のRPE評価を調査し、RPE評価と踏力値が一致するかどうか検証した。その結果、RPE評価とペダル踏力の間には強い相関が認められ、操作牲の良いペダル配置はペダル踏力が大きくなり、操作しやすいと評価したRPE評価結果と一致することが明らかになった。 3.ペダル操作姿勢(腰角、膝角、足首角)とペダル踏力との関係を解析した結果、操作性の良い(ペダル踏力が最大を示す)ペダル操作姿勢は、ブレーキペダルでは腰角90°〜100°、膝角120°〜140°、足首角60°〜80°、クラッチペダルでは腰角95°〜100°、足首角60°〜80°の範囲であった。なお、膝角については明確な値を求めることはできなかった。
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