本研究は、筆者が開発した新しい知能的制御法を活用して、果実の鮮度維持(水損失や呼吸を最小にする)、そして高品質化(糖度を上げる、適度な硬さにする)ための最良の温度操作パターン(熱ストレスと低温の最適な組合せ)をシステム科学的に究明し、その技術の実用化をはかることである。 1.温度変化(5〜45℃)に対するトマトの水損失、呼吸、果皮色、硬さ、糖度の変化を調べた。温度が高くなるにつれ、トマトの水損失速度、呼吸速度、果皮色はいずれも反応が大きくなるが、35℃以上では逆に低くなり、そして一旦このような熱ストレスを12時間以上与えると、その後はもとの温度(低温)に戻しても抑制された。すなわち、熱ストレスによる果実の鮮度維持の効果が認められた。 2.カオスの概念を導入して、果実の内部品質を簡易かつ非破壊で計測する新しい方法を開発した。これは果実が選果過程でトレイを転がるときのトレイの振動特性から、果実の硬さ(追熟度合い)を推定する。振動データのアトラクターを見ることによって、その形から果実の硬度が推定できた。 3.3層のニューラルネットワーク(学習によるシステム同定法)を用いることにより、複雑な温度に対するトマトの水損失速度、呼吸速度、果皮色の動的モデルが構築できた。 4.次に、このモデルのシミュレーションから、目的関数(貯蔵期間における水損失速度、呼吸速度、果皮色の3つの値)を最小にする温度操作を、遺伝的アルゴリズムを用いて求めることが出来た。最適値は、収穫後直ちに40℃の熱ストレスを与え、その後急激にもとの温度(低温)に戻すパターンであった。 5.この温度操作をトマト(果菜類)から温州ミカンや伊予柑などの柑橘類に拡大し、熱ストレスの効果を調べた結果、トマトより、柑橘類の方が大きかった。 6.以上の結果より、本最適制御システムの有効性が確かめられ、実用化の見通しを得た。
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