L.acidophilusグループ乳酸菌は、ヒト腸管の中から見出される乳酸桿菌の中の主要なものであり、プロバイオティク系の乳酸菌として、発酵乳の製造に使用されることが多くなってきている。しかしこの菌は一般的に牛乳中での生育が緩慢であるため、発酵に長時間を要する。そこでその原因解明を目的として研究を行った。ヒト腸管由来のアシドフィルスグループ菌株の中から、L.acidophilus6株およびL.gasseri4株の脱脂乳中での生育速度を、L.bulgaricusを対称として比較した。L.acidophilusの4株はL.bulgaricusに準ずる生育を示したのに対して、2株は中間的な生育を示し、L.gasseriの4株は生育不良であった。脱脂乳に2%のグルコースを加えても生育の改善が見られなかったことから、ラクトースの分解活性の低いことが生育不良の直接の原因であるとは考えられなかった。プロテアーゼpで分解したカゼイン分解物を少量脱脂乳に加えることによって、中間的な生育速度のL.acidophilusでは生育が顕著に改善された。各菌株を脱脂乳で37℃、18時間培養した後に、乳中に残存する非タンパク態窒素化合物量を測定したところ、その量は生育速度と平行関係にあった。脱脂乳中での生育の良好な2株について、菌体外プロテアーゼの発現を追跡したところ、培養8時間目ころから菌体外に作り出されるプロテアーゼの活性が乳中に高まり、その後も48時間にわたって活性が維持されることが認められた。またこの菌体外酵素は、特にκ-カゼインによく作用することが認められた。 これらのことから、牛乳中では低分子窒素化合物が不足しているため、L.acidophilusは自らのプロテアーゼによって乳タンパク質を分解することが必要であり、このようなプロテアーゼ活性の強い菌株が牛乳中での生育も良好であるものと考えられた。
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