大型肉用ヤギは沖縄県の農家で雑種強勢により開発された系統であり、成長速度が速く、一年で体重80kg以上の大型ヤギへ成長する。ヤギは、本来は木の葉食いであるが、大型肉用ヤギはウシと類似して草食いの食性を有しており、乾草で飼育することが可能である。従って、多頭飼育の可能性を秘めている。しかし、乾草給与時には採食初期に採食量の顕著な抑制が観察される。本研究は、平成14-16年度基盤研究(C)(2)「大型肉用ヤギにおける採食量の体液性調節機序に関する研究」における乾草給与時の大型肉用ヤギの採食量抑制機序を明らかにすることを主眼としたものである。乾草の採食開始直後の唾液分泌量の顕著な増加に由来する血液性状の乱れが採食量抑制へ関与している可能性が予想された。そこで、耳下腺フィステル装着動物において採食開始前に耳下腺唾液を第一胃内へ注入したとき、採食量抑制が軽減された。次に唾液のどの成分が失われることにより採食量抑制が引き起こされているかが調べられた。このことは、混合唾液(低張)又は耳下腺唾液(等張)として失われる場合について調べられた。いずれの場合においても、唾液中水分の損失による循環血漿量の減少(hypovolemia)が採食量抑制を引き起こしていることが明らかにされた。その末梢性要因は脳内で渇きの感覚を形成して、そして採食量を抑制していることが予想された。それで、乾草の採食に伴い脳内で生成される渇きの感覚の形成に関与する脳内神経伝達物質の生成および放出をソマトスタチンの脳室内注入によって抑制した場合に、採食量抑制のレベルが軽減されるかどうかが調べられた。その結果、乾草の採食初期の採食量抑制には脳内ペプチドが関与していることが示唆された。脳内神経伝達物質の同定は、今後の研究に期待される。本研究の成果は、乾草で飼育している大型肉用ヤギにおける'採食初期の採食量抑制機序の一端を明らかにしたことである。本報告書では、本研究費により助成された研究に関する「公表された論文」、「印刷中の論文の校正原稿」、「投稿中の論文」及び「現在投稿予定の論文草稿亅を掲載した。大型肉用ヤギはウシやヒツジと同様に乾草を飼料として多頭飼育することが可能であるが、その時の採食量抑制機構および採食量抑制を改善する方法の開発について、更なる研究が必要であると考えられた。 最後に、基盤研究(C)(2)「大型肉用ヤギにおける採食量の体液性調節機序に関する研究」に対する文部科学省科学研究費として受け得た研究補助金での平成14年からの3年間の成果を報告書にまとめさせて頂いたが、御批判、御助言を賜れば幸いである。また、この研究費を受けたことに心より感謝する次第である。
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