ヤクはウシが適応できない高冷地でウシにかわる家畜として、またウシとの雑種として利用されている。ヤクのもつ高冷地適応能と核外遺伝子の関係をさぐる目的でヤクmtDNA全塩基配列を決定した。 モンゴル中央県産のヤクについて決定した塩基配列を、これまでに解析してきたヨーロッパ系牛、インド系牛、アメリカバイソン、ガヤールの塩基配列と比較解析した結果、全領域でみられたヤク特有の塩基置換は合計173箇所であった。このうちアミノ酸置換を伴う変異は14箇所みられ、うち8箇所が親水性から疎水性の置換であった。従ってこれらの領域がタンパク質に翻訳された場合、その高次構造は他のウシとは異なると考えられる。またCO III領域において終止コドンに特徴的な変異が見られた。すなわちCO III領域803bp目にTからCへの置換が起こっており、この置換はアメリカバイソン、ガヤールにおいても見られた。これによりヤクをはじめアメリカバイソン、ガヤールのCO III領域では、終止コドンがセンスコドンとなりアミノ酸がひとつ多く作られていると予想される。このほか12SrRNAにヤク特有の挿入が1箇所(741bp)見出された。 非コーディング領域であるD-loop領域にはアメリカバイソンと共通の欠失、挿入が確認された。ヤクのD-loopは、この1箇所の挿入と7bpと9bpの連続した欠失によりウシの鎖長910bpよりも短い892bpとなっていた。 mtDNAに存在する22領域のtransfer RNA(tRNA総計1513bp)には、ヤクにだけに見られる塩基置換が10箇所みられた。このうちtRNAフェニルアラニンは6、17および55bp目の3箇所にヤク特有の塩基置換が見られ、とくに変異が蓄積している領域であった。
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