最小血縁選抜(MCS)は集団の遺伝的多様性を最大に保つための選抜方法であるが、分離世代を持つ集団に対して導かれたものである。そこで、重複世代を持つ集団へ適用できるようにMCSを拡張した。Hill(1974)およびJohnson(1977)によって定義されたgene flow行列をP、性および年齢別平均共祖係数を要素とする行列をF、性および年齢別の個体数の逆数から得られる対角行列をDとすると、連続した2年(t、t+1)のFは、漸化式F_<t+1>=PE_tP'+Dにしたがう。したがって、Pのべき乗の定常形をAとすると、ある年(t)の共和係数の究極的寄与はAF_tA'となる。この式を用いて性および年齢クラスの重み付け係数として、集団の遺伝的多様性を長期的に最大に保つための係数(WLT)および次年の遺伝的多様性を最大化する係数(W1)を導いた。WLTおよびW1を用いたMCS(MCSLTおよびMCS1)をランダム選抜(RS)とコンピュータシミュレーションにより比較した。設定した条件下での50年後の集団の平均共祖係数は、RS、MCSLTおよびMCS1の下で、それぞれ35.1%、15.2%および16.3%であり、MCSLTが最も高い遺伝的多様性を保った。中立遺伝子の保有数から求めた遺伝子多様度もMCSLTが最も高い値を示した。さらに、MCSLTと最小血縁交配を併用した場合(MCSLT+MCM)の効果を、ランダム交配を用いた場合(MCSLT+RM)と比較した。両者の間で維持される遺伝的多様性には大きな違いは認められなかったが、MCSLT+MCMはMCSLT+RMよりも集団の近交係数を低く保った。
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