モルモット大脳からクローニングしたIntegrin-linked kinase(ILK)のcDNA(GenBank Accession No.AF256520)をオリゴヌクレオチド変異法により、ILKの触媒ドメインに存在するN末端から359番目のグルタミンサン(E)をリジン(K)に点変異させることで、他の基本ドメインを保存させたまま酵素活性のみを不活化させたドミナントネガティブ体(DN-ILK)を作製した。DN-ILKと野生型ILKは、神経未分化細胞であるN1E-115細胞に導入後、それらタンパク質を高発現させることによりILKの機能を分化条件と未分化条件の両条件下で評価した。N1E-115細胞には、内在ILKが発現しているのでDN-ILKをステイブル発現することにより内在ILKの活性を阻害した結果、N1E-115細胞の神経突起形成を有意に阻害した。それに対して、野生型ILKをトランジエントに高発現させると、非分化条件下にもかかわらず、N1E-115細胞は神経突起を形成し神経へと分化した。以上の結果から、ILKはN1E-115細胞の神経突起形成に必要不可欠であることがわかった。さらに、ILKのシグナル下流にはp38MAP kinaseが存在し、ILKの活性化後に生じるp38MAP kinaseの活性化がN1E-115細胞の神経突起形成に必要であることを証明した。さらに、DN-ILKをステイブル発現したN1E-115細胞のタウタンパク質は高度に異常リン酸化され、その結果、この高度異常リン酸化タウが線維状に形質膜を内面から覆う篭状の形態をとることを新たに発見した。さらにタウの高度異常リン酸化は、内在ILKの不活化に伴い活性化されたGSK-3βにより引き起こされ、内在ILKはGSK-3βのSer9をリン酸化することで不活化し、タウタンパク質が高度異常リン酸化されないように保護していることを証明した。また、タウの異常リン酸化は、DN-ILK発現細胞の神経分化不全に部分的に関与していることを明らかになった。異常リン酸化タウは、アルツハイマー病の病理学的所見で認められる神経原線維変性の発生機構の1つと考えられており大変興味深い。このように、ILKは神経分化機構に直接関与するだけでなく、タウのリン酸化を調節することで、神経分化時の微小管形成の促進と分化後の微小管の安定化に寄与する。
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