本年度は、イヌにおける結果と比較するため、RT-PCRによりマウス・アイソタイプ特異的配列を遺伝子クローニングにより明らかにした。また、これらの配列をプローブとしたリボヌクレアーゼ・プロテクションアッセイによりmRNA発現の組織分布を解析したところ、クラスIが組織普遍的に見られるのに対し、クラスII、IIIおよびIVaは脳に特異的であり、クラスIVbは精巣で極めて高く発現していることを確認した。 一方、抗癌剤耐性獲得機構とβ-チューブリン・アイソタイプ変換機構の解析のため、マウス悪性黒色種由来B16F10株のビンクリスチン耐性株を樹立し、各アイソタイプの発現変化についてリボヌクレアーゼ・プロテクションアッセイによりそのmRNA発現を解析した。その結果、クラスIIアイソタイプが有意に上昇した。すなわち、ビンクリスチン感受性の親細胞ではクラスIIがほとんど検出されないのに対して、5nMビンクリスチン耐性株では10倍以上に上昇することを見いだした。この結果は、少なくともB16F10株においてはクラスIIアイソタイプが抗癌剤耐性に寄与していることが示唆され、このことはヒトのある種の癌とも共通の現象であった。また、昨年度までの成果である、イヌ悪性混合腫瘍においてクラスIVaアイソタイプがタキソール耐性に寄与していることとは明確な違いが見られた。一方、クラスIIIおよびクラスIVa・アイソタイプは耐性獲得によりその発現が減少した。 現在、B16F10株のビンクリスチン耐性獲得メカニズムを詳細に検討するため、マウスゲノムDNAよりクラスIIチューブリンのプロモーター領域を含む遺伝子をホタル・ルシフェラーゼをレポーター遺伝子に持つプラスミドベクターにクローニングし、ビンクリスチン反応性領域を検索している。今後、種々のdeletion mutantおよびpoint mutantを作製して、ビンクリスチン耐性に関わる遺伝子調節領域を決定し、さらに、耐性株で上昇する可能性のある転写因子についてはゲルシフトアッセイとスーパーシフトアッセイにより同定する予定である。
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