消化管壁内には粘膜下神経叢と筋層間神経叢があり、自律的な消化管運動を支配している。鳥類の消化管は哺乳類と異なる点が多く存在するが、鳥類ではこれら2つの壁内神経叢が消化管壁内でどのように広がっているのか、全体像は解明されていない。今回は鶏の消化管壁内神経叢をホールマウント標本で免疫組織化学的に染色し、消化管各部位における壁内神経叢の分布と形態学的特徴を明らかにしようと試みた.雄の成鶏を用い、ネンブタール麻酔下で0.75%生理的食塩水、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1M燐酸緩衝液を総頚動脈に流し、灌流固定を行った。十二指腸、空腸、回腸、盲腸、直腸から長さ1〜2cmの組織を摘出し、腸間膜の付着部位に沿って縦に切開した。粘膜を擦り落として筋層だけからなるホールマウント標本を作製し、protein gene product 9.5に対する抗血清を用いてABC法で免疫染色を行った。消化管壁内の神経要素全体が免疫陽性反応を示した。粘膜下神経叢は、小腸では神経線維束が細くて主に輪走し、神経節の数が多く、網目が細かく、複雑に分枝しているのに対し、大腸では網目が大きくなり、神経節と神経線維束の区別が容易であった。筋層間神経叢の神経線維束は太くて縦走し、神経節の数は少なくて網目が大きく、消化管の部位による違いが少なかった。一般的に壁内神経叢は、小腸では神経叢の網目が細かく、大腸、特に盲腸では網目が大きくなった。また、粘膜固有層で陰窩の底部を取り囲むように走る神経線維を観察できた。鳥類の消化管は食物の消化と吸収、糞の貯蔵と排出などに加え、尿として排泄腔に排泄された尿酸と水分を盲腸に運ぶ逆蠕動運動を行うが、壁内神経叢はこれらの消化管運動を支配していると思われる。
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