鶏の消化管には内在性の神経要素として筋層間神経叢と粘膜下神経叢がある。これら2つの神経叢がどのように構築されているのかを明らかにするために、次の実験を行った。1.壁内神経細胞の投射方向に関する研究。十二指腸と直腸の壁内にトレーサーとして西洋ワサビ過酸化酵素をマイクロピペットにより微量注入した。標識細胞と注入場所の位置関係から判断すると、輪状投射が多く、頭側投射が少なかった。標識された外来性神経線維が十二指腸では輪状に、直腸では縦に走っていた。2.壁内神経叢の全体像の解明。腸管各部位のホールマウント標本を作製し、神経組織全体を免疫組織化学的に染色した。筋層間神経叢の神経線維束は太くて縦走し、神経節の数は少なくて網目が大きかった。粘膜下神経叢は小腸では神経線維束が細くて主に輪走し、神経節の数が多く、網目が細かくて複雑に分枝しているのに対し、大腸では網目が大きくなり、神経節と神経線維束との区別が容易であった。3.絶食による影響。給水絶食の状態で一週間飼育すると、下部の腸管で筋層間神経叢の抑制性神経細胞数が有意に減少した。絶食により腸管運動が停止したために起こったと思われるが、神経細胞自体が消失したとは考えにくく、神経細胞が一時的に神経伝達物質を合成しなくなったためであると思われる。以上の結果から、消化管の運動を制御している壁内神経叢は部位、特に小腸と大腸で構築様式に差が見られる。鳥類の消化管は食物の消化と吸収、糞の貯蔵と排出などに加え、鳥類の消化管に特有な機能として、尿として排泄腔に排泄された尿酸と水分を盲腸に運ぶ逆蠕動運動を行うことが知られており、壁内神経叢はこれらの消化管運動を支配していると思われる。
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