研究概要 |
以前、消化管での抑制性伝達物質としての、一酸化窒素の役割は発育、加齢とともにラット消化管の全部位において、その役割が著しく減弱することを認めていた。また、逆にペプチド伝達物質のVIPは、ラットの遠位結腸において抑制反応のメディエイターとして働いており、発育とともに著しく役割が増加することを認めていた。本研究ではさらにもう一つのペプチドのPACAPについて検討した。そして、ラット空腸において以下のような結果を得た。(1)電気刺激による神経興奮により惹起される弛緩反応は、2週齢で最も大きく、以後週齢とともに減弱する。(2)2週齢ではcyclic AMP, PKAを介する経路と、tyrosine kinase, SK channelを介する経路が存在し、前者の役割が著しく高いことが分かった。(3)ところが動物が成長し8週齢になるとcyclic AMP, PKAを介する経路が激減し、tyrosine kinase, SK channelを介する経路が中心になることが分かった。 PACAPがSK channelを介して働いていることから、次に消化管組織でのSK channelの存在部位を検索した。免疫組織化学的に調べたところ、SK channelの存在部位は平滑筋細胞ではなく、その間質に存在することが分かった。この細胞がカハールの間質細胞ではないことが、c-Kitの抗体と SK channelの抗体が同一細胞に反応しないことから分かった。そして、SK channelの抗体に反応する細胞がfibroblast like cellであることが、proryl 4-hydroxylaseに対する抗体を用いることで確認された。これらの結果から、おそらくPACAPが働く細胞はfibro blast-like cellであり、ここでのSK channelを介した過分極が平滑筋にgap junctionを介して伝達され、弛緩に結びつくものと考えられた。 一方、マウスの胃体部における抑制性メディエイターを検索し、以下の結果を得た。(1)神経を介した弛緩反応は、神経刺激直後に現れる一過性の早い弛緩と、刺激後に長く続く弛緩であつた。(2)一過性の弛緩は一酸化窒素によりメデイエイトされ、遅く長く現れる弛緩は、PACAPとPHIによりメディエイトされていることが分かった。(3)常に一定量の両ペプチドが分泌され、胃体部平滑筋を抑制的に調節していることが示唆された。(4)現在、PACAP receptor antagonistとして汎用されているPACAP 6-38がPHI receptorをもブロックすることが示唆された。
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