研究概要 |
発生生物学的背景が充実しており、かつ解析力の高いゼブラフイッシュとアフリカツメガエルを用いて、ダイオキシンの発生毒性における分子機序を検討した。この研究はこれら下等脊椎動物においてもほとんど不明であるダイオキシン毒性の分子機序を明らかにし、ヒトを含めた高等ほ乳類における毒性機序解明への手がかりをつかむことを目的としている。 1)ツメガエルの約4万クローンのcDNAについてマクロアレイを行った。2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)は受精後27時間胚で1クローンの増加、5クローンの減少、7日胚で41クローンの増加、12日胚で14クローンの増加、42クローンの減少を起こした。しかし、cytochrome P450 1A (CYP1A6,7)を除いて、ノーザンブロット法で増減が一致したクローンを見つけることができなかった。 2)ダイオキシン受容体である一種類のAh受容体をツメガエルにおいて初めてクローニングした。全長が3150bp、推定アミノ酸配列が834AAであり、他の脊椎動物と61-76%の相同性を示した。 3)ノーザンブロット法により、Ah受容体は受精後初日から既に弱いが発現し、7日で顕著な増加がみられた。AHRの発現はTCDD暴露で影響されなかったが、CYP1A6,7の他、CYP1Bでは顕著な誘導が受精後2日からTCDD濃度依存性に観察された。この他、AhR nuclear translocatorやグルタチオン転移酵素の発現はTCDDに影響されなかった。 4)上述の結果から、初期発生においてTCDDであきらかな誘導を受けるCYP1AについてTCDD感受性の高いゼブラフィッシュで役割を検討した。ゼブラフィッシュ胚において我々がこれまで報告しているように、TCDDは体幹の血流遅延・浮腫、下顎の成長阻害および中脳背側部の局所循環障害とアポトーシスを起こした。モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(AHR2-MO)を用いて、ゼブラフィッシュで報告される二種のAh受容体の一つ(AHR2)の翻訳を阻止したところ、これらすべてのTCDD毒性が顕著に阻害された。 5)AHR2-MOは毒性とともに、CYP1A mRNAと蛋白誘導を阻害したので、CYP1Aに対するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(CYP1A-MO)を処置したところ、上述のTCDDによる毒性が抑制された。 これまでの成績より、発生初期のダイオキシン毒性にAh受容体が関与することをマウス以外の動物で初めて観察した。またTCDDをはじめとしたダイオキシン処置によりCYP1Aが顕著に誘導されることがよく知られていたが、毒性との関係は不明であった。本成績はAh受容体活性化から毒性発現の間にCYP1Aの誘導が介在することを示す初めての分子生物学的証拠である。
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