研究概要 |
前年度までの研究で、TCDDなどのダイオキシンによって顕著に誘導されるチトクロームP450(CYPIA)がTCD毒性の指標だけでなく、介在機序として毒性発現にも関与しうることを示唆した(Teraoka et al.,2003)。これはモルフォリノアンチセンス法によるCYPlAの翻訳阻害の結果を主な根拠としているが、その効果は低濃度TCDDに対してのみ有効である。この観察はCYPlA以外の機構の存在を示唆している。そこで今年度はCYPlA以外に注目した。 1)TCDD毒性におけるプロスタグランジン合成経路の役割 最近、TCDDがヒト由来培養肝細胞で、炎症や各病態で誘導されるプロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX2)が誘導されることが報告された。我々はTCDDがゼブラフィッシュ胚の中脳背側部の血流障害とアポトーシスが起こることを報告しているので、COX2の関連について検討した。 a)COX2阻害剤であるNS398、SC236およびCOX1,2の阻害薬であるインドメタシンは対照には影響を与えなかったが、同時暴露した場合TCDDによる中脳静脈の血流遅延とアポトーシスを顕著に回復させた。 b)COX2に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ処置は低濃度TCDDによる血流遅延とアポトーシスをほぼ完全に消失させた。 c)48〜50hpf胚の頚動脈と思われる部分にCOX2 mRNAの強い発現が観察できた。TCDD処置はCOX2発現に全く影響しなかった。 2)TCDDによる下顎低形成とヘッジホッグシグナルとの関連 我々はこれまで、ソニックヘッジホッグ(shh)が上・下顎にも発現し、この発現はTCDD暴露により顕著に減少した。今年度はshh発現に対する効果がTCDDによる下顎低形成に影響を与えるか否かについてさらに検討した。 a)ダイオキシン受容体(AhR2)に対するモルフォリノアンチセンス処置はTCDDによるshh発現の低下を阻止した。 b)ヘッジホッグ阻害薬およびソニックソニックヘッジホッグ欠損ミュータントについてBrdU抗体染色とTUNEL染色を行た結果、いずれも下顎における細胞増殖の減少およびアポトーシスの増加が見られたが、TCDD処置胚では細胞増殖の減少のみ観察された。 c)TCDDは下顎原基のptc1と2の発現には影響を与えずに、shhおよびtwhhの発現を低下させた。 これらの成績は、少なくともヘッジホッグ以外の経路もTCDDによる下顎低形成に関与することを示唆する。
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