研究概要 |
平成12年6〜7月、わが国において加工乳(低脂肪乳等)を原因として過去最大の患者数(13,000人以上)を示すブドウ球菌エンテロトキシンA型毒素による食中毒が発生し、大きな社会問題となった。また、近年相次いで新型ブドウ球菌エンテロトキシン(SE)の存在が報告されてきているが、これら新型毒素の食中毒原性と食品汚染状況については十分明らかにされていない。新型SEの診断方法の確立とSEの危害評価を目的とし、平成14〜15年度にわたり以下の研究を行った。 A.組換え型SEの精製法の確立と抗SE血清の作成 これまでに大腸菌発現系による大量調製系が報告されていないSEJについて、遺伝子クローニングと大腸菌発現系の構築、およびSEJの精製法の確立を試みた。SEJは大腸菌体内で不溶化しやすく、可溶性画分に回収される量が少ないため、さらなる発現条件の至適化と回収率の改善が必要である。 B.SER遺伝子の同定とその生物活性の解析 SEJをコードするプラスミド上に、SEJとタンデムに新型SEであるSER遺伝子が存在することを明らかにした。さらに、大腸菌発現系を用いてSER蛋白を大量に精製し、SERの生物活性を精査した。SERはスーパー抗原活性を有することを明らかにした。また、SERの定量的検出法を確立した(Infection and Immunity 71:6088,2003;Infection and Immunity 72:3664,2004)。 C.生乳中の黄色ブドウ球菌汚染と新型SE遺伝子保有状況 現在までに報告されている18種類のSE(SEA-SEE, SEG-SER)遺伝子を検出できるmultiplex PCRシステムを開発した。さらに、本法を用いて牛生乳より分離された黄色ブドウ球菌155株のSE遺伝子プロファイルを調査した。生乳由来黄色ブドウ球菌のSE遺伝子プロファイルは、健康ヒトおよび食中毒由来株と同様に極めて多様性を示した。しかしながら、多様なSE遺伝子プロファイルは、種々のSE遺伝子をコードするいくつかのmobile genetic elementsにより規定されていることが推定された(投稿準備中)。 D.脱脂粉乳製造中の濃縮乳中の黄色ブドウ球菌の増殖およびエンテロトキシン産生性 脱脂粉乳製造工程の濃縮乳(15,25,35%濃度)中における黄色ブドウ球菌の増殖動態(15,25,35℃培養)とエンテロトキシン(SEA)産生量について詳細に検討を行った。S.aureus増殖は35℃で最も良好に増幅し、SEA産生量も最も多いことが明らかになった。さらに、SEA産生に影響を与える種々の要因を解析した(J Food Protectに投稿中)。 以上の成果は、新型SEの生物学的特性を明らかにするうえで、また新型SEの食品衛生上の危害を評価するうえでも、極めて重要な知見であると考えられる。
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