本研究では、前十字靭帯を切断する事(ACLT)で作出したイヌのOAモデルにおける軟骨細胞のアポトーシスの状態を評価し、さらにこのOAモデルに対してHAを関節内あるいは静脈内投与した場合、軟骨細胞のアポトーシスにどのような変化が表れるかを検討した。加えてHAの投与が滑膜細胞のアポトーシスと炎症にどのような効果をもたらすかも合わせて検討した。 実験には健常な1歳齢のビーグル犬35頭を用い、これを正常群、無処置群、HA-ia群、HA-iv群の4群に分けた。正常群以外の3群は左膝関節にACLTを行った。その後HA-ia群ではHA 10mg/jointを、HA-iv群ではHA 20mg/jointを、それぞれ手術翌日から1週おきに計5回投与した。安楽死後直ちにACLTを行った膝の大腿骨顆に付着する軟骨を採材し、コラゲナーゼで基質を分離した後、軟骨細胞をPI染色してflow cytometryにてDNA断片を検出した。同時に軟骨組織をHE染色、TUNEL染色してアポトーシス細胞の検出を試みた。その結果、無処置群ではアポトーシスを起こした軟骨細胞の割合が正常群と比較して統計学的に有意に増加していることが示された。この事から、イヌのACLTモデルにおいても軟骨細胞のアポトーシスが誘発する事が明らかとなった。これは前十字靭帯を切断した事による関節の不安定性が軟骨に異常な負荷をもたらし、その結果軟骨細胞のアポトーシスが増加したものと思われる。12週後のHA-ia群とHA-iv群においては無治療群と比較してアポトーシスの割合が減少していることが示された。したがってHAの関節内投与、静脈内投与はいずれも軟骨細胞アポトーシスの抑制、ひいてはOA進行の抑制に有効であると考えられた。滑膜に関しては、滑膜細胞のアポトーシス、滑膜の炎症のそれぞれにおいて無処置群とHA-iv群の間に有意な差が認められなかった一方で、HA-ia群は他群と比較して増悪している傾向を示した。関節内投与を行う際の針による刺激、あるいは外因性のHAが直接滑膜に接触する事による反応などが原因として考えられるが詳細は不明であった。これらの結果より、軟骨細胞のアポトーシスは滑膜の変化の程度とは無関係に起こる事が示唆された。 以上をまとめると、ACLTを行ったイヌのOAモデルでは軟骨細胞のアポトーシスが誘発されている事が示された。また、HAは関節内投与、静脈内投与ともに軟骨細胞のアポトーシスを抑制するのに有効であると考えられた。異なる2種類の経路で投与されたHAが、OAに対してほぼ同等の抑制効果を見せた事になるがその作用機序の詳細に関しては今回の実験で明らかにする事はできなかった。
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