我が国においては、本州の東日本に生息するノネズミにはYersinia enterocolitica血清型O:8(O:8菌)のみが保菌されているのに対し、西日本地域ではY.pseudotsuberculosisのみが保菌されており、いわゆる、菌の"すみわけ"現象が観察される。本研究では、この"すみわけ"現象を解明する目的で、我が国の代表的なノネズミであるアカネズミを対象にして、Y.pseudotsuberculosisならびにO:8菌の実験感染を行なった。また、あわせて、検体からY.pseudotsuberculosisを分離するために、Loop-mediated Isothermal Amplification法(LAMP法)による迅速同定法の開発を行った。東日本地域ならびに西日本地域のアカネズミに対して、O:8菌とY.pseudotsuberculosis血清型4b(4b菌)を経口投与して、その感染性や致死性を検討した結果、いずれの地域由来のアカネズミも、O:8菌と4b菌のいずれの菌に対しても感受性を示し、投与後14-28日間程度の排菌が観察された。また、いずれの菌を投与した場合でも、死亡する個体はみられず、全例が感染に耐過した。これらのことから、我が国のノネズミで観察される、Yersinia属の"すみわけ"現象は、アカネズミの両菌に対する感受性の面からは本研究では充分に説明できなかった。また、Y.pseudotsuberculosisに特異的なinv遺伝子に対して設計したプライマーを用いたLAMP法により標的遺伝子は30分以内に菌種特異的に増幅された。また、その検出感度はPCR法に比べると高く、いずれも10^0〜10^2CFUの菌数でも検出可能であった。
|