研究概要 |
臨床的に極めて悪性度が高い犬に自然発生した口腔内腫瘍を研究対象として、腫瘍の浸潤と転移に深く関係するマトリクス・メタロプロテアーゼ(MMP-2)の活性をゼラチンザイモグラフィーで検討し、ついでMMP-2とその活性化因子である細胞膜貫通型MMP(MT1-MMP)、内因性阻害因子(TIMP2)のmRNAの発現をPT-PCR法で検討した。またそれぞれの腫瘍組織タイプにおけるMMP-2/TIMP-2 ratioを算出して比較検討した。さらに犬の口腔粘膜や皮膚に発生する肥満細胞腫については、MMP-2,-9の発現検討に加えて、それらの腫瘍組織内における局在性をin situ hybridyzationで検討した。 ザイモグラフィーによるMMP-2活性の検討では、悪性黒色腫、扁平上皮癌の100%が陽性を示した。次にPT-PCR法によってMMP-2,MT1-MMP, TIMP-2のmRNAの発現を検討したところ、それぞれの因子単独では腫瘍組織型の間に有意差は認められなかった。しかしながらMMP-2/TIMP-2 ratioは悪性黒色腫、扁平上皮癌で正常歯肉組織に比較して有意に高値を示した。またはリンパ節浸潤や遠隔転移を伴う口腔内腫瘍では、MMP-2/TIMP-2 ratioが有意に高値を示した。さらに肥満細胞腫における検討では、MMP-2,-9がそれぞれ72.2%、66.6%の症例で発現が認められ、それらのmRNA発現量の検討では、MMP-2,-9のいずれも肥満細胞腫が有意に高い発現量を示した。in situ hybridyzationによる検討では、MMP-9は血管内皮細胞および腫瘍細胞において発現が認められ、TIMP-1は主に間質細胞に発現しているものと考えられた。 以上の結果より、犬の口腔内腫瘍の浸潤と転移にはMMP-2が関与している可能性が示唆され、MMP-2/TIMP-2 ratioによる評価は有用と考えられた。また肥満細胞腫においてはMMP-2,-9の両者が関与している可能性が考えられ、MMP-9は血管内皮細胞や腫瘍細胞において発現している可能性が示唆された。
|