食中毒細菌の一種であるカンピロバクター(Campylobacter jejuni)を液体培地中で培養すると、容器として用いたガラスやプラスチックの表面に付着して、いわゆるバイオフィルムを形成することを観察した。本研究の目的は、環境や食品中での本菌の生存性におけるバイオフィルムの役割を明らかにすることであるが、本年度の研究では、C.jejuniかのバイオフィルムの形成過程を形態学的に観察し、これに関与する遺伝子群を推定してそれらのノックアウトミュータントを作製した。バイオフィルムの形成過程を24ウェル・マイクロプレート内の液体培地中で経時的に観察すると、培養開始時には活発に遊泳していた菌が次第に求心的に集合し、培養2時間後に直径2〜5μmのマイクロコロニーを形成した。さらに培養を続けるとコロニーは増大し、4時間後には各コロニーが網目状に結合し、6時間後にはウェルの底面に肉眼でも観察できる膜状のバイオフィルムを形成した。バイオフィルムをルテニウムレッドで染色した超薄切片を透過型電子顕微鏡で観察すると、菌体表層物にルテニウムレッドが結合しており、菌体外多糖がバイオフィルムの主要な構成成分であると考えられた。さらにバイオフィルムを走査型電子顕微鏡で観察すると、鞭毛が架橋構造をとり、菌体間の結合に重要な役割を果たしていることが分った。これらの観察結果をふまえ、鞭毛形成に関与するflaA、flaB、flhA遺伝子、走化性に関与するcheY遺伝子、多糖合成に関与するkpsM、wlaI遺伝子のバイオフィルム形成における働きを調べるため、各ノックアウトミュータントを作製した。
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