研究概要 |
地球環境の温暖化に伴い、再興・新興感染症の蔓延が予想されている。ヒトが動物と共存し、これを利用するうえで看過することができない人獣共通感染症について、将来激変するであろう環境変動を予測し、現時点での疫学様相を詳細に記載することを本研究の目的とした。研究成果は14篇の学術論文(投稿中を含む)に纏められた。公表された主要な研究成果は以下の通りである。 1.移入種であるタイワンリスにおける人獣共通感染症の汚染状況を調査した。神奈川県鎌倉市のタイワンリス105個体を供試した結果、1個体からキチマダニ(Haemaphysalis flava)、10個体からヤマトネズミノミ(Monopsyllus anisus)、19個体からシラミ(Neohaematopinus callosciuri)が採取された。また、1個体からToxoplasma gondii、8個体からライム病ボレリア(Borrelia afzelii,B.garinii)に対する抗体が検出された。消化管内寄生虫相については、蠕虫の虫体および虫卵は陰性であり、5個体からCryptosporidiumのオーシストが検出された。本研究では、マダニ類およびノミ類として、日本の野生動物で一般的に見られる種であるH. flavaおよびM.anisusしか検出されなかった(Med.Vet.Entomol.,2004)。N.callosciuriの日本国内での報告は無く、本来の生息地である東南アジアからタイワンリスと共に移入されたと考えられる(J.Vet.Med.Sci.,2004)。 2.熊本県天草地方の野生イノシシおよび同地域の動物病院に来院した飼育ネコにおけるT.gondii抗体の疫学調査を行った。イノシシ90頭における陽性率および疑陽性率は1.1%および3.3%であった。一方、ネコ50頭においては、陽性率0%、疑陽性率3.3%であった(J.Vet.Med.Sci.,2004)。
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