研究概要 |
これまで、申請者(二宮)はラット繊維肉腫、ラット繊維腺腫、ラット乳頭状腺腫、イヌ扁平上皮癌イヌ可移植性性器肉腫、チャイニーズハムスター肝細胞癌、イヌ肝臓癌のそれぞれの血管系について観察し報告してきた。それぞれの腫瘍の共通点として、(1)腫瘍血管には血流調節装置であるintra-arterial cushionが存在しない、(2)腫瘍に分布する動脈では、血管中膜を構成する平滑筋繊維に退行性変化がみられ、自動血流調節機能が欠如している、等を確認した。今年度はさらに観察を進め、腫瘍血管の新生と増殖過程および腫瘍中心部における腫瘍血管の崩壊過程(中心壊死)について観察することとした。 材料に発癌剤投与によるラット乳癌およびシリアンハムスター頬袋への移植癌を用いた。 研究方法:ラットでは7,12dimethyl-bennzanthraceneを経口投与し乳癌を得た。シリアンハムスターでは頬袋にウシ由来顆粒膜細胞腫の培養細胞1000-1500万個を頬袋に注射し腫瘍を得た。得られた腫瘍を組織学的に観察し、さらに、血管鋳型標本を作製し、走査型電子顕微鏡で観察した。 観察結果:ラット乳癌およびシリアンハムスター顆粒膜細胞腫いずれも血管新生は次の過程を経ることが解明された。(1)既存の血管に微細な棘状血管が形成(budding)され、(2)これが進展し隣接する血管から同様にbuddingがおき、(3)このbuddingが互いに連結し一つのhairpinを形成する、(4)このhairpinから引き続きbuddingが形成され次第に複雑な毛細血管網が形成され腫瘍が栄養される。腫瘍血管の退行変性は、以下の過程を経ることが解明された。(1)腫瘍を支配する腫瘍動脈壁の平滑筋細胞に変性(形質溶解、空胞化)が起きる、(2)動脈壁が薄くなり血管腔が拡張し洞様(sinusoid)化する、(3)腫瘍中心部では洞様化した血管が周囲の腫瘍組織に圧迫され狭窄、扁平化、断裂が起き、既存の血管網が消失する。こうした血管の変化により中心壊死が起こることが推察された。
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